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【ひとりごと】「忘れられない言葉」。

私の誕生日近くに、実家に帰省したことがある。

その時期に帰省するのは実家を出てから初めてのことで、母はとても喜び、誕生日のお祝いをすると言ってくれた。

 

帰省予定日の二週間ほど前、母との電話の中で、誕生日プレゼントは何がいいかと聞かれた。

せっかくのお祝いなのだから何か買ってくれるというのである。

その時、私には気になっているコスメがあった。そのコスメは評判もとても良く、私を長年悩ませる化粧崩れとも無縁の生活になるのではと期待していた。

そこでそれをリクエストしようかと思ったのだが、ある記憶が私をためらわせた。

 

「私がコスメを買うことに対して、家族があまりいい顔をしなかった記憶」だ。

 

 

私がメイクを始めたのは大学生からだった。

それまでコスメに触れたこともなく、特にしたいとも思っていなかったが、大学でみんながメイクをしているのを見て、しなければならないと感じた。

メイクデビューに際して、母がいくつかのコスメを買ってくれた。

下地、ファンデーション、チーク、アイシャドウ。

めんどくさがりの私にとってメイクはとても億劫なもので、アイシャドウやチークを省いたりしていた。今思えばとんでもないことである。

 

当時仲良くしていた友人は、しっかりメイクができる人だった。

ある日その子にアイラインを引いてみてはどうかと言われ、私は訳もわからぬままドラッグストアでアイライナーを購入した。

買ったはいいものの引き方がわからないのでネットで検索し、あるページに辿り着いた。

いろいろなアイラインの引き方が紹介され、実際にその引き方をした女性モデルの顔写真が掲載されているページである。

 

それを見て私は衝撃を受けた。

変わっているのはアイラインの引き方だけなのに、そのモデルの顔の印象がかなり違っていたのである。

 

アイラインひとつでここまで変わるのか

 

その気づきは私にとってとても大きなものだった。

 

私は自分の顔が嫌いだった。容姿をからかわれてからそれが忘れられず、自分が写っている写真や動画を見られなくなった。鏡を見るのも苦痛だった。

そんな顔を、メイクでなら少しマシにできるのかもしれないと思ったのである。

 

それからは積極的にメイクをするようになった。

色々試したくて、たびたびコスメを購入して帰宅するようになった。

コスメの量は最初に比べるとかなり増えた。私は楽しかった。

 

ところが、私に対する家族からの言葉は真逆と言っていいものだった。

「そんなに持ってどうするの?」「もったいないよ」「もう買うのやめといたら?」

そんな言葉を言われた。

私のことを否定していたわけではないのだろう。必要最低限以上のコスメは、彼らにとっては本当に不必要なもので、お金を出してそれを買うことが本当にもったいなく思えていたのだと思う。

 

その言葉たちは、私のメイクへの興味を削ぐことはなかった。でも、コスメを買うことが悪いことかのように思わせる効果は十分にあった。

私は新しいコスメの開封を、自室でこっそりとするようになった。

開封した後のゴミもわからないようにして捨てた。

メイクポーチを家族の前に出さないようにした。

 

 

 

母に誕生日プレゼントを聞かれた時、その記憶が一気に脳内を駆け巡った。

一瞬のためらいの末、結局違うものをリクエストした。

 

私が自分の顔を嫌いになるきっかけとなった言葉の力。

それを打破しようとしてメイクに縋った私に、コスメを買うことを後ろめたいことかのように思わせた言葉の力。

きっとそれらはこれからも私につきまとって離れない。忘れることは決してない。

その力はとても強大でもはや呪いのようだと、つくづく思い知らされる。